神ノ川、大瀬戸右岸に流入する小沢で“丹澤記”にその名がなければ、知られることもなかったようなマイナーな沢である。
もちろんその存在は知っていたが、後回しにしているうち今まで行きそびれしまっていた。しかし、あのくちの悪い吉田喜久治さんが、珍しく褒めている沢でもあり、どんなところかは気になるところ、一度は歩いてみようと思っていたのでショート周回で訪れてみることにした。
大瀬戸トンネル北側[6:55]…ツナノ沢出合[7:15]…ツナノ沢右俣F1[7:40]…ニノオ稜線[10:15]…ニノオのタルから神ノ川へ下降…折花橋から神ノ川林道…駐車地[11:05]
ツナノ沢へは、立石建設の砂利採掘場の河原を通り抜けていけばすぐなのだが、私有地に無断で侵入するわけにもいかず、面倒ながら、大瀬戸トンネルが開通するまで使われていた古い林道から行くことにした。
大瀬戸トンネルの近くには、車が長時間置けるような適当なスペースがなく、不本意ながらトンネルをくぐる手前の道端に車を置いて出発する。
トンネルの入口の左手にはザレが積まれた空き地があり、張られたロープを跨いで入っていくと、そこに道があった証のガードレールが現れた。
今では釣り師も歩かない神ノ川林道の旧道で、背丈ほどの雑草が生い茂り、昨夜の雨で濡れている。突入を躊躇してしまうが、ビショ濡れになりながら掻き分け侵入していくと、左下を流れる神ノ川から大瀬戸堰堤が落とす水音が聞こえてきた。
堰堤下流側は水が多くて渡れそうにない。上流側までいったあたりで、旧道脇の土留め石積を下降して神ノ川に降り、大瀬戸堰堤の上を横切って対岸のツナノ沢出合に立った。

出合はガレに埋まり伏流で、沢の奥を覗きこむと薄暗く、どことなく陰鬱な印象だ。
100mほど沢に入ったところで倒壊した石積堰堤があり、そこからはわずかに水流が現れた。
しばらくダラダラとしたゴーロを行くと、510mで二俣になり、ニノオのタワに詰め上げている左俣には水流がない。水の流れのある右俣に進路をとり入って行くと前方にF1が見えてきた。
大棚というには水の流れが乏しく物足りない。二段の棚で落差は下段8m、上段5mといったところだろうか。適度にホールドがあるので登れそうにも見えるが、もちろん登らない。
巻いて越えるならどちらだろうと周囲を見回してみると、右手にあるザレザレのルンゼを登っていけば落口方向に続くバンド状をたどって行けそうにみえる。ルンゼを這いつくばって登り、下からバンドに見えたところをチャレンジしてみると、行けそうに見えるけど詰まったらどうしようといった感じで、躊躇してしまう。
迷ったらやめるという自分なりの鉄則を守り、一度棚下まで戻り、今度は左手の泥斜面に取り付いた。30mほどズルズル登ったところから右にトラバースして、落口右岸の岩場を抜けようと試みたが、思ったよりリスキーで岩が信用できない。「エイ、ヤッ」でやってしまうほど若くはないので諦め、にここも引き返す。
F1越えにずいぶん時間を食ってしまったが、逃げるのもシャクだし次なる手段はどうしよう…
もう一度、じっくり周りを見回すと、最初に登ったザレルンゼの右側の小尾根が登れそうだ。
かなりの高巻きにはなるが、左岸から棚の上流側に抜けられるかもしれない。そう思い取り付いてみると、灌木や木の根につかまりながらの登りなのでお手の物、不安定なトラバースよりはるかに安心感がある。ツナノ沢左岸の尾根に乗り、沢に戻れるところがないか探してみると、何のことはない、ザレ斜面を20mほど下って、あっけなく落口の左岸に降りられた。

ようやくF1を越え、遡行を続ける。
水流がもっとあれば、それなりに綺麗なナメ床なんだろうけど、水量が少ないのでどうにもパッとしない。沢の中は概ねこんな感じである。

そしてF2、上部は滑り台状で、水は滴り落ちる程度なので迫力はない。
上部がゆるい傾斜なので落口が見えず、落差をいうのが難しいが、10mぐらいということにしておこう。
ここは、背面の斜面を登って右に移動、右岸から巻いて越える。

F2を越えて、二連の石積堰堤をすぎれば沢の終わりは近い。

最後の二俣ルンゼを左に取り、岩盤の上に泥が乗った不安定な斜面を登っていくと、
風巻ノ頭北尾根を一旦くだりきった、810ピークとの鞍部にたどり着いた。

F1を巻くのに手間取り、時間が余計にかかったが、巻き方を知って歩いていたらもっとあっけなく稜線にたどりついていたことだろう。
周囲はだいぶガスってきた。天気がよければ、もう少し歩こうかとも考えていたが、きょうはここまで。下山路は、先日、光岩沢の帰りに歩いたばかりだが、ニノオのタワから西に下って神ノ川を渡り、折花橋の袂から神ノ川林道にあがるルートをとることにした。途中から南西に下って、ツナノ沢出合にも下降できそうだが、そのあとのヤブコギを避けてこちらのルートを選択した。
今回歩いたツナノ沢右俣、辛口寸評で有名な吉田喜久治氏が、『こんなところにこんないい沢があるとは誰もおもうまい。おもわぬひろいもの。』と称賛した沢だが、訪れたのは今から65年前の2月冬のこと。当時と今ではだいぶ状況も違うし、天候や水量、訪れた季節などでも受ける印象は違うだろう。
とは言え、正直に個人的な印象をいえば、短く楽しむには面白い沢だが、「おもわぬひろいもの」とまでは言えないな。
まあ、“蓼食う虫も好き好き”といったところでしょうか…
2016.7.16(土)
《今回のルート図》
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