悪魔の爪痕のような大崩壊地が広がる、蛭ヶ岳の北西斜面に突き上げる仏谷。崩壊崖を意味する“ホケ”が名前の由来なのだが、当てられた漢字の「仏」と結びつき、へたすればホトケになってしまうほど凄絶なところのイメージがついてしまった。しかし、大半は明るいゴーロで歩きやすい。決め手はF1と大滝の巻き方、そして詰めの大崩れをいかに逃れるかである。
神ノ川林道日陰沢橋ゲート[6:30]…広河原[7:24]…魚止め滝[7:35]…金山谷・仏谷二俣[7:59]…チョックストン5m[8:20]…仏谷大滝[09:09]…1160m二俣[9:58]…1200m二俣右岸へ[10:30]…仏谷小谷界尾根1390m平坦地[11:28]…主稜線東海自然歩道合流[11:42]…地蔵岳[12:12/12/22]…伊勢沢左岸支流[12:44]…本流に合流[13:20]…ardbegさんnenetaさんとバッタリ遭遇[13:25頃]…伊勢沢大滝上[13:57]…F2[15:06]…F1[15:30]…伊勢沢出合[15:38]…神ノ川林道[14:47]…日陰沢橋ゲート[16:18]
日陰沢橋のゲートをすり抜け神ノ川林道を進み、ところどころに法面が崩落して積もったガレの山を見ながら広河原へと向かっていく。いつも、その日の沢の水量を占う、孫右衛門の滝まで来てみると水音がまったくしない。雨の少ない時季には、あまり水が落ちていないことはあるが、きょうはまったく水の流れのない涸棚状態になっていた。
ここもほとんど水流のない広河原に降り、奥へ進んでいくと、狭くなったあたりの渓相が前と違う。
もっと大岩がゴロゴロしていたはずなのに上流から土砂が押し流されてきたらしく、
砂に埋もれ河原状になっていた。
金山谷に入るのに越える魚止滝は、手前の釜に入って股まで浸かり、
水流の少ないチョックストン側を攀じ登って越えた。
続く綺麗なナメ滝は、右岸の断崖から崩落した岩屑が積もって半分埋まってしまっている。
以前一度、同じように埋まったことがあったが、その後の大水でガレがすべて押し流され、
もとに戻った。また、自然の自浄作用を期待したいものである。


仏谷F1、チョックストン付きの5mは、堰き止められた水のせいか前面の釜が前よりも深くなっていた。
水浴び覚悟の直登はせず、というよりハナから登る気はないが、右岸直壁のフィックスロープも、
最初の2mがゴボウになるのでやめて、おとなしく高巻きルートで越える。

上部傾斜の緩んだところもふまえ落差18m
通称、仏谷大滝(=トップ画像)

大滝落口

ここからしばらくは陽光を浴びながらのゴーロ歩き、1160mで本ダルミに続くガレ沢を右に分け、
大きく左に曲がって続く本流のチョックストン5m滝。
本来ならもっと水流があるのだが、きょうはチョロチョロ。だからって直登する気にはなれない。
右から大きく回り込み、左岸をトラバースして上流側に抜けていく。

1160mの二俣あたりから上流にくると、本流と支流が分かりづらく、地形図を確認して進むべき方角と、
実際の分岐で受ける印象が違って戸惑うことが多い。
ここも右岸の枝沢に入るのかと思うようなところで、左手から曲がって落ちてくる滝の方へと入る。
ホールドはしっかりしていて登るのは難しくないのだが、岩にあたって飛び散る水流をもろに浴びる。
どうしても躊躇してしまうので、左のルンゼに上がり巻いていく。

岩角や細木の根っこをつかんで掻き登っていくと、けっこう踏まれたトレースが続いている。
ふたたび沢に降りて遡行を続けてもよいのだが、じきに大崩れの崩壊地に行き当たり、
そのあとの苦行のことを思えば、ここらで尻尾を巻いて尾根に逃げたほうが得策と思い、
そのまま踏跡を追って登っていくことにした。
最初だけ我慢すれば、けっこう登りやすいイイ尾根だ。“イイ尾根”の定義は人それぞれなのでアシカラズ。
急登が一段落したところで見渡すヒワタ橋から続く谷筋。背景は左の檜洞丸から大笄、そして大室山。

そして、いつのまにか仏谷小谷界尾根の1390m付近の平坦地に合流、
ひと登りすれば蛭ヶ岳と姫次間の東海自然歩道に飛び出る地点である。
逃れて上がった仏谷と小谷の界尾根
蛭ヶ岳北西斜面の大崩れとミカゲ沢ノ頭との鞍部本ダルミ方面を観る。

あのまま沢を詰めれば、いずれどれかの崩壊地に行き当たり、もがいていたこと間違いなし、早目に逃げたのは正解だった。過去に何回か歩いた仏谷のルートの中では、今回歩いたところが一番お勧めできるルートだと思う。
朝の元気なうちは、蛭ヶ岳までいくぞと勇んでいたものの、登山道にでたとたんその気はうせ、ヤ~メタ。
取りあえず東海自然歩道を歩きながら帰りのルートを考える。歩いた軌跡には、くだらないこだわりがあり、
ピストンはもちろん、扁平だったりペチャンコだったり、グチャグチャは気に入らない。
地蔵尾根じゃ尻尾の長いオタマジャクシになるし、といって絵瀬尾根はしょっちゅう下っているし、
このまま東海自然歩道もたまにはいいけどガラじゃないし…
ならいっそのこと伊勢沢を下降しちゃえ、ということで地蔵岳へと向かう。

もちろんそんなことは承知の上、埋め尽くされた岩屑と倒木に足を取られながら沢を下って本流に合流した。
あとは本流の滝下りとゴーロ歩き、ガレ沢よりは歩きやすいがまだまだ先は長い。
そう思い下流に向かって歩きだしてすぐ、岩陰から登ってくる人影が二つ…
こんな時間から遡行してくる人がいるんだと思ってみていると、なんだか見覚えのあるシルエットだぞ…
やっぱりそうだ。
神出鬼没、遭遇上手なardbegさんとnenetaさんの二人でした。
それにしても、ずいぶん遅いご出勤だなと思ったら、きょうは時差通勤で出発が9時、おまけに大滝を越えたあと間違えて左俣に入ってしまい、わざわざ右俣に戻ってきたとのことだった。そのまま左俣を詰めて姫次に抜けてもよさそうなものだが、そこはこだわりの二人のこと、原小屋平で昼飯を食うという最初の目的貫徹だそうだ。
そのこだわりとオレの気まぐれのお陰の遭遇だったが、あと5分、本流に出るのが遅かったらスレ違いのメロドラマで終わってしまうところだった。こういう偶然の出逢いはうれしいね。
しばしのよもやま話のあと、原小屋平に向かう二人とはお別れ、夕飯にならないようにね。
こちらは伊勢沢をくだるだけだが、考えてみればここはまだ大滝の上流側なので先は長い。
すでにヘロヘロなんだけど…
落差50mの伊勢沢大滝落口

左岸の巻き道で大滝下へ

大滝すぐ下のF3は、左岸にあるロープを使ってへつる方が怖い。
水流沿いを慎重に下降して、あとはF2までしばらく滝はない。
F2落口、落差15mぐらいありそうだ。
右岸側の岩壁に垂れる残置ロープで下降する。

二段8m F1落口、
落口の右岸に垂れ下がるトラロープにつかまり上段を降りたら、
下段を簡単に降りて釜のへりを右から回り込む。

F1をすぎれば出合は間近、あとは水量の少ない神ノ川をひとまたぎして、林道までのわずかな登りなのだが、たった40、50mの登りもヘロヘロ、ボロボロの体にはこたえる。
ここ最近、持久力がなくなったのに加え、オーバーユースがたたってか体中の経年劣化が止まらない。
長年の付き合いの腰痛、折った左足首、それをかばって左膝、連鎖して右膝も、さらには股関節まで痛むようになってきたのだから困ったものだ。
2017.6.10(土)
《今回のルート図》
この記事へのコメント
ardbeg
すでにヘロヘロのご様子で心配でしたが、さすがの伊勢沢下降ですね
K川水系Y沢など夏の内にやっちゃいましょう
計画お願いします
イガイガ
自信ないけどやりますか…
shiro
並の人なら、仏谷の遡行だけでヘロヘロになってしまうはず。
さらにあの伊勢沢を下降して『ヘロヘロ』とは、常人ならぬ体力があってこそだと。
伊勢沢F3の“左岸にあるロープを使ってへつる方が怖い。水流沿いを慎重に下降して”にイガイガさんの凄さを感じます。
あの水流の強いF3を、ロープに頼らないで登ったり降りたりできないよぉ・・・
仏谷の名の由来も「なるほど!」です。
いつもながら、地名の知識には脱帽です。
イガイガ
大滝直下、伊勢沢のF3ですが、shiroさんが遡行したときは、おそらく水量が多かったときだと思います。通常の水量以下なら水流沿いを登った方が簡単だと思いますよ。ただし、スリップには注意です。
bunazuki
イガイガ
5月までスキーとは、よっぽどお好きなんですね。丹沢にも、昭和41年、菩提峠にスキー場ができたそうですが、笑っちゃうことにたった1シーズンで閉鎖したらしいです。丹沢でスキーはムリですが沢ならいくらでも遊べます。おたがい楽しみましょう。